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2015/06/15

スイッチが、オフだぜ

 これは少し前の話なのだけど。
 妹から再三勧められていながら未読だった『宇宙兄弟』を何かの拍子で読み始め、あんまりおもしろいので既刊分読破してしまった後のこと。
 報告して、ついでに感想戦やりあうまでが漫画の愉しみというやつでさ、やっぱり最終選考の時の密室だよね、いやいや、などとまずは緒戦、「名場面」編で剣を交える。そののち彼女は「いいことたくさん言ってるんだよね~、迷ったときは楽しい方を選べ、とか」とシャロン博士の言葉を引いて、感想戦中盤「名言」編にコマを進める。そののちには、「名脇役」「名擬音語・擬態語」「名アングル」「名表情」「名伏線」「名未回収のプロット」と幾多のステージが待っているわけだが、「名言」の話にしましょう。
 私にとって超弩級は、「俺の敵はだいたい俺です」と決まっている。出所は十一巻後半、宇宙飛行士候補生(アスキャン)として訓練中の六太が上官のビンスに、君の敵は誰か、と訊かれた時に、有人宇宙開発を邪魔するマスコミ、科学者、ロボット業界、天文学者などの候補を退けてこう答えるのだ。続きはこう。「自分の”宇宙へ行きたい”っていう夢をさんざん邪魔して、足を引っぱり続けたのは結局俺でした。他に敵はいません」
 私はこの部分、何度読んでも響いて仕方がない。

 自分の邪魔をする自分というと、論文読むときに漫画を読んだり、筋トレすべき時にドーナツを食べたりする奴のことかと最初は思うんだけど、そっちの阿呆のことではない。
 その阿呆の後ろにいる、もっと賢くて、目端が利き、分別があり、未来のことをよくわかっていそうな奴のことだ。
「おまえがちょっと頑張ったところで出来ることじゃないんじゃないの?」
「そんなことやって誰が喜ぶの?」
「調べても答えは出ないんじゃないの?」
「つながってると思ったのは勘違いじゃないの?」
「どのみち評価されないんじゃないの?」
「何の役に立つの?」
…いかにも正しい顔をしてそんなことを囁いてくる奴だ。その所為で、本当んところちょっと面白いけど大変でスリルがありすぎて不安にもなるし畏怖もするような過程全体が、現世的な不安の塊にしか見えなくなって、安易な逃避に走ってしまうんだよね。しかも、世の大勢の意見は(少なくとも目に入ってくる嵩の大きいのは)こっちに近い。げに、雑音ばかりで軸足の置場を勘違いしそうになる、勘違いしているのは私だと思い込んでしまう、思い込まされているのはどちらだ?何のために?
 安心しよう、そいつは未来のことなんか何にもわかっちゃいない。

 二週間前に色々終わった瞬間からしばらく、なんの文章を読んでも好奇心が湧かず、絵の前に立っても言葉が出てこない、挙句の果てに気晴らしに手に取った活字の中身も頭に入ってこない、映画を見ても場面を思い出せないという状態で、機械的に論文読んだり資料整理したりしてたのだが、やっと好奇心が復活してきたらしい。
 そうそう、漸くスイッチがオンになってきた。
 文章という文章が書けない時は駄文さえ書けないものなので、今は駄文を書いていることもうれしい。

2015/06/13

さっぱりしたいので

 梅雨入りの所為か何のためか、本業、生活、プライヴェート、どれをとってもなんとなくモヤモヤとしていて見通しが立たないのに、いい加減嫌気がさした。
 目下最重要課題はちょっとやそっとではびくともしないから、せめて目の前にある宙ぶらりんなものたちを片づけようと、ブランチに薄いコーヒーを大量に流し込みながらまずは旧パソコンからデータを完全に移行する。2009年からよく頑張ってくれた白のラップトップは、ここのところとみに遅くなって(去年夏に新しいノートを手に入れたあたりから顕著に…やっぱ浮気ってばれるわね)たまに開いても思うように手になじまず、ただ半端に移行していないデータのために家の机の一部を占拠していた。データで膨らんだ遅いマシンから写真やpdfをポータブルHDDに移し始めると、七時間だかかかるらしいので、その間に働くことにする。
 シーツと枕カバーを替えて洗濯に取りかかり、普段使いの物ばかりなので、漂白剤も入れて殺菌、併せて家中の水回りのぬめりを除去し、排水溝を掃除、トイレと台所の床の水拭きして、風呂掃除をデラックスで行い、洗濯物を干し、棚の上に積もった埃を除去し、掃除機をかけ、鏡を磨き、もう使っていない化粧品を捨て、第二弾にエマールで洗濯機を回し(信じられないことに、まだ仕舞っていない毛糸の物があった)、電気ストーブを押し入れにしまい(信じられないことに、まだ出してあった)、漂白剤の散文的なにおいを消すべくゼラニウムの香油をアロマポットで焚くうちにデータの移動が終わったようなので旧ラップトップを押し入れに入れ、たまっていた処理済の領収書の類を封筒にまとめて机を水拭きした。だいぶんすっきりしたついでに、みすぼらしくなった下着をいくつか捨て、だめ押しに、もう破れかぶれだけれど昔はずいぶん気に入っていたのでどうしても捨てるところまで踏み切れず、幸か不幸かここの日常にはあまりときめくような場面はないのだが、そんな可能性があるような日には間違っても履かないだろう靴を二足処分した。
 滞っているときに水回りの掃除をすること、靴を買うときには古い靴を処分すること。この辺は昔の同居人の方針であって、私は忠実に守っているわけではないが、たまに真面目に実践してみると効果の絶大さに恐れ入る。
 論文を読んで、まともにピアノの練習をして少し汗をかいたついでに家の周りを走ってみる。走るのに関してはだんぜん、山の中の方が気持ちがいい。