この布を買ったのは去年の初冬、風情は巣鴨だが地名は銀座という商店街の中心に、三番館というこれまた五番街なんかを意識したような名前のデパートがあるのだが、そこが北海道旭川市内にあって阪神タイガース応援歌が流れ、アウトレットという言葉が人口に膾炙するずっと前からちょっといいものが驚くほど安くなったりする不思議スポットで、地下の絨毯売り場ではギャッベだのキリムだの何十万するベルギーやらトルコやらの絨毯がぞろぞろ並んでやはり謎の値下げが行われたりする。母はそこに赤ちゃん布団のための着物地を探しに行って9万の値札の付いた色無地の反物を三千円で買ってきたことがある。
その日は、中の布屋が二割引きだというので、赤ちゃん用品の材料でも見ようと妹と遊びに来たのだった。ちょうど隣には高校の時によく食べたたい焼きとお焼きの店があるし。そこで見つけたのがこの布。ごくごく薄い織りのインド製の綿ローン。
そういえば2012年から気に入って使っていたインド綿のストールが、いよいよ傷んでワカメみたいになってきたので、前の年の夏から代わりを探していた。年中、首や肩に何かしら巻いていないと落ち着かないのだけど、金属でかぶれやすい夏場にアクセサリーがわりにするならコットンや麻に限る。特にインド綿は、汗をかいても食べこぼしてもじゃんじゃん洗濯出来て、畳むと小さく、薄いけれどそれなりに冷房よけにもなり、イランで髪を隠すのにもほうぼうの宗教施設で肌を隠すのにも使えたし、なんならホテルのお風呂で手洗いしても次の日には乾くので頗る重宝だ。そして、これだけ旅先で重宝なものは、つまり日常的に頼れる奴ということである(*)。
探していたのはストールだったけれど(いや、そもそもは赤ちゃん用の可愛い二重ガーゼなんかを探していたのだけど)、安くなっているし、布でもいいかもなー、と布のぐるぐる巻きを物色していると、お店のマダム。
ーーそれは綿ローンっていって、夏物の生地なの。今の時期はあまり出ていないけれど、夏にドレスやなんかを作るの。薄物だから涼しくて綺麗でいいわよ。ローンでワンピースとかドレスとか作ると、30万円くらいするのよ。グッチとか、ああいうところでね。
ほう。グッチが30万のドレスを作る布、と来たか。
セールストークもここまで壮大だと、かえって志が高くて背筋が伸びる。ちょっとうれしくなって、その時に首に巻いていたマフラーと同じ長さをもとめた。180cmが1200円かそこらで、グッチが30万のドレスを作る布が買えてしまった。
なにせドレスも作れちゃう素敵な布だから、ビーズなんかつけたりしてもいいかも、などと少し煩悩がよぎったけれど、当初の予定通り洗えるインド綿のレギュラー使いができるよう、大人しく両脇(耳から少しのところ)にロックミシンをかけ、端は切りっぱなしに。
そんなわけで三番館は今回もなかなかいい味出てたのでした。
(*) 1-2週間くらいの旅の荷物にもっていきたいもの=普段のレギュラー、という感じが望ましいと思う。