まだ一日目、昼は赤の広場すぐそばの百貨店内のカフェテリアで済ませることに。
幾何学的な形態のレーニン廟。中には永久保存されたレーニンの死体があるらしい(ずいぶんと偶像崇拝的じゃないですかね)…ひどく並んでいたので入場はあきらめた。
カフェテリアでは、冷たいものは自分で取り、温かいものはよそってもらう。左上から時計回りに、細切り牛肉とオリーヴの油漬けやレモンの入ったトマト風味のさっぱりスープ「ソリャンカ」、ポテトサラダ「オリヴィエ」、ひき肉の入ったクレープ「ブリヌィ」にサワークリーム「スメタナ」、黒パン。酸味とクリームがかなり重要な仕事をしているが、それがロシア料理全般の特徴な気がする。これで600円くらいなのだけど、ものすごーくお腹いっぱいになった。
カフェがあるのはモスクワの誇る高級百貨店らしいグム百貨店。並ぶ店は錚々たるものだが、アーケードが無駄にかわいくて、ちょっとアウトレットモール風である。
ちなみに、このカフェテリアに、デジカメを置き忘れて、30分ほどして戻ったのだけれど、レジで預かってくれていた!素晴らしい。
満を持してプーシキン美術館に向かい、まずは、最寄り駅からすぐの救世主キリスト教会(救世主ハリストス大聖堂などとも)へ。
この場所は複雑な歴史をたどっており、もとは19世紀終わりごろにロシア正教会として作られたが、スターリンのロシア正教弾圧&ソビエトを称えよ政策で1931年に爆破される。そのあとソビエトの象徴的大宮殿が建てられるはずが難航し、1960年からは屋外の大温水プールが作られて市民憩いの場になっていたらしい。いちいちスケールが大きいことである。亀山郁夫先生の『あまりにロシア的な。』(文春文庫、2013年)では、プールの跡地が荒れ果てたままの不気味な穴として登場する。今建っている教会は2000年に再建された非常に新しい聖堂で、なかもピカピカの現役、熱心にお祈りする人が多い。
プーシキン美術館は、本館とヨーロッパ館があり、両方ヨーロッパ美術だがヨーロッパ館には近代絵画が収集されている。写真は本館のほう。続く二枚が、ちょうど館内の彫刻コーナーなのだが、彫刻の多くが石膏あるいはブロンズのレプリカで、西洋の主要な彫刻が時代・場所ごとに網羅されている。つまりは画学生や美術史学徒の教育目的なのだけれど、レプリカでも写真で見るよりずっといいし、結構コンパクトにまとまっていて面白かった。絵画は珠玉の本物が並んでいて、すこぶる楽しいのは言うまでもない。
夜はシベリア料理店に行ってみた。高級らしいが、ピカピカのほうではなく、隠れ家的で、しかもあまりお腹がすいていなかったのであまりたくさん頼めなかったのだが、色々丁寧に教えてくれて、サービス素晴らしかった。
シベリア料理の外せない逸品がストロガニーナстроганинаという、凍らせた魚を薄切りにしたおつまみらしい。二種類の魚の種類があって迷っていたら、ハーフ&ハーフにしてくれた。これはルイベですね。非常に淡白な魚なんだけど、口の中で溶けるときに風味と食感がふわっと生き返る感じでとてもおいしい。胡椒とジンジャーソースというのをかけるのだけど、このジンジャーソースにレモンが効いて、かすかな生臭みと合う。
生臭いものと合うといやあ、めちゃくちゃ合うのがウォッカである。少しアニスとかスパイスのフレーバーのついたものを頼んだけどキンと冷えてすごく美味。我々はとてもじゃないが一息で飲むのは無理なので、水と交代交代にちびちびやりました。
メインはエルク(ヘラジカ)のステーク・アシェ。ひき肉くらいに細かく刻んで焼いたもの。ツナギとか野菜とかを練りこんでいないし、とにかく味が野生的なので、ハンバーグという言い方はそぐわない気がする。しいていうなら漫画『ゴールデン・カムイ』で一躍有名になったアイヌの肉食方法「チタタプ」(何人かで分担して骨や筋も含めて刻む料理、生で食べたりそのあと団子にしてスープに入れたりする)と通じるんじゃないかな。ちょっと軟骨のような歯ざわりも入っているし、独特の風味は「臭い」というより血肉を食べている感じ。フランスで大好きな高級品だった香り高い森のキノコ「ジロール」と、レッドカラント(山になってる酸っぱくて赤くてきれいな実)とクリームを合わせたソースがついている。野生に野生を合わせ、森に迷い込んだ時に出された忘れない味っていう感じの料理で、なかなか日本ではないだろうがとても好みであった。
(おーっとなっていたら、取り分けてくれた。この後実感するんだけど、ロシアでは結構よさげなレストランでも、実に気軽に「シェアします」をOKしてくれるのがありがたい。)
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