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2015/02/15

フィクションの土曜

 週末になる瞬間にどうやら気が抜けたみたいで、土曜は朝起きた瞬間から呆けて仕方がなかったので、この際一日呆けることにした。軽くご飯を食べてから、ピアノを小一時間。昼過ぎに家を出て駅前の尾道浪漫珈琲でチョコレートとアイスと生クリームとイチゴののった「ヴァレンタインワッフル」を黙々とたいらげる。それから駅前の映画館で『悪童日記』。その後大学の卒業・修了制作展を梯子した。
 こういうとふらふらっと気の向くままに動いているようだが、完全に計算ずくの一人遊びであり、照準は14:30始まりの映画である。何しろ単館、ちょくちょく好みど真ん中のがかかるのに、大体一日一回だから、余程気を付けてスケジュール調整しないと逃してしまう。今回も真昼間だから土日のうちに行かなければと息巻いていたわけだ。
 『悪童日記』はアゴタ・クリストフの同名小説の映画化で、主人公が男の子の双子なのだが、それを本当の双子が演じている。あれを映像になんてできるのかしら、と疑いながら見たけど、そう、第一部だけだからできるのだった。途方もなくリアルで救いのないおとぎ話として、むしろかなり効果的だ。冷たい灰緑色の支配する風景が、一瞬長閑に見えたと思ったらすぐに容赦ない厳しさに戻るところ。最初に一瞬出てくるブダペストのいかにも裕福そうな室内との落差は激しい。石造りの街が爆撃されるときの音もかなり怖い。双子や隣の女の子は、私が考えていたよりも大きいけど、その分生々しさがある。殺伐とした状況で生き延びるために、自分たちで訓練によってお飾りめいた「人間性」ー弱さとか迷いとかに近いタイプのーを少しずつ剥ぎ取っていくような双子の表情は凄くいい。老人たちの顔もいい。三部作を久しぶりに読み返したくなった。

 何となく興が乗って、夜ご飯のあと、買ってあったピエール・ルメートルのミステリ『その女アレックス』も読んでしまった。賞をいくつか取っているようで、この辺りの本屋でも平積みにしてある、珍しい翻訳本だ(邦題はもうちょっと格好よくならなかったのかなあという気もするけれど)。
 そして、これがまたとんでもない徹夜本である。
 描写が結構細かいんだけど、それでリズムが遅くなるわけではなく、翻訳もほどほどライトで読みやすい。その「アレックス」という謎の女にかかわる事件を追う刑事グループの班長と「アレックス」の視点が(三人称で)交代にきてぽんぽん新しいことが分かっていく。というか謎の中心であるアレックスの心理描写をはじめっからガンガン入れてくるのに、この子のことは最後の最後まで新情報が目白押しで分からないままなのだ。
 うっかり三分の二くらい読んだところで深夜二時を回って体力がつきたので、目を閉じたのだけど、頭は完全に続きを考えて無限ループに入ってしまい、久々にあの自分が布団にいることを理解しているのだけど全身の感覚が全くなくって、どんな姿勢をしているのか、体重がどうなっているのかわからず、ただその「ない」感覚と同時並行して次は誰を?なぜ彼らを?と脳みそが高速回転している、ほとんど金縛りみたいな状態になった。
 結局あきらめて目をあけたら四時で、五時半までかかって終わりまで読んだ。日曜が休日だったのは幸いだ。
 まあ、面白かった。けど、『ミレニアム』シリーズの方が好みかな。敵のスケールはだいぶん違うわけだが、なんか味方の多彩さにおいて。