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2018/09/01

色々と追い付く

 昨日は平日だがとりたてて人との予定が入っていなかったので、色々と追い付く日に認定し、まずはささやかな朝寝坊、ヨガと筋トレを組み合わせた簡単な体操とシャワーで目を覚ましてソーサー付きカップでコーヒーを飲んで、少しピアノを弾いたあと万全の日焼け対策で鞆の浦に向かった。
 お昼前後は鞆の津ミュージアムで会期終了間際の「文体の練習」展、世界に触れて認識することと表現することの過程にある、大抵は自動化されて気にもとまらないようなステップが、それぞれの作家の文字記号とのやり取りを通してスローモーションで展開されるような面白い展示だった。私たちも今度展覧会をやろうとしている「素描」について考える起爆剤にも。
 午後の間少し学校で仕事をして、夜になって続けるか迷った末に、きれいな夕焼けを見て映画を見に行くことを急遽決意。ポール・トーマス・アンダーソンの「ファントム・スレッド」、シネマで金曜までだった。
 ダニエル・デイ・ルイス扮するドレスメーカーと、その姉と、元ウェイトレスのミューズのサスペンスな愛の物語だが、ドレスはもちろん、部屋の隅々もメゾンで働く女性たちも、言葉の端々もすべて端正で徹底してて綺麗で、ゆぅっくり動くカメラで絵のように切り取られていくイメージに酔いそうだ。時折差し挟まれる「今」の場面の光がまた狂気じみた美しさなのだけれど、それは普通の事件後の回想をしている場面でないからであって、その辺が明らかになるくだりの不気味さにさえ気品があって、なんともヨーロッパ…。
 ところでネタバレになりますが、これは神経質な天才と深い関係になってしまった時の対処法として「たまに半殺しにして弱らせておく」という新機軸を打ち出した作品でもある。数々のフィクションや実話から思うに、天才は災厄なので、会わないに越したことはないし、会ってしまったらできるだけ早くその場を立ち去り決して深入りしてはいけないが、もしかかわってしまった場合、ありがちな間違いが殺したり自殺に追い込んだり心中を試みたりすることだが、これでは結局自由になれない。相手の心に深いトラウマを刻みながら去るというのは捨て身の戦術として有効とはいえ幸せじゃあない。そこで今回の方法で、これはまさしく泥沼なんだけど、キライなものに毒を混ぜてそれを十分感づいている相手に目の前で食べさせるというどうかしているプレイなのだけど、美しくて完成されていて幸せそうなので、まあ、いいんじゃないのと思ってしまいます。