A.S.バイヤットの『抱擁』は、確か学部3年か4年かそれくらいに読んだ。物語は、あまり冴えているとは言えない英文学者の卵が、研究対象である19世紀の詩人アッシュの書簡の下書きを偶然に図書館の本の頁の間から発見し、思わずノートに挟んで持ちだしてしまうことから始まる。書簡を調べるうちに、その相手である女流詩人との間に秘密の恋が見え隠れし、女流詩人の研究者であるモード・ベイリーとの共同研究が始まる。現代ではストーカーじみた伝記研究からフェミニズムまで、色々な文学理論や手法が、研究者たちの個性や信条と切り離せない関係をもって登場しては活躍し、ヴィクトリア時代では二つの静かな生活を焼きつくすような恋が燃え上がって、現代の(とはいってもデータ管理をPCでなくカードでやってる頃だ)研究者たちの人生にも浸食してくる。
すごく気にいったミステリであり恋愛小説であり研究者の生態であって、映画があると知った時にはすぐにでも観るべしと思った割に忘れていたのを先ほど観賞した。モード・ベイリー役のグウィネス・パルトローが輝くようで、並行して展開するヴィクトリア朝の世界は美しいだけでなくてラファエル前派の画家まで出てきてくれるし、伝統的な図書館の造りも懐かしくわくわくする。同じ背景の中を現代と19世紀とを自由に移動する編集も(特に機関車の走り出てくる場面!)効果的で素晴らしかった。
今改めて観ていると、資料を黙って持ち出したりしている場面にはかなりひやひやさせられるが、やっぱり一次資料(の新発見)は何よりの冒険だ、と改めて。勉強しよう。の前に、寝よう。
No comments:
Post a Comment