近頃、朝の用意がスムーズにいく秘密の呪文を手に入れた。だいたい茶碗を洗うくらいのタイミングで坊に洋服一式を出して、こういうのである。
ーーここに服出てるけど、まだ着替えないでゆっくりしてていいからね~。あんまり早くしちゃうとママまだお化粧も茶碗洗いも終わってないから…。
すると、早く着替えて!行くよ!だったらレゴから顔も上げない坊が
「ええ~~。でも早く着替えちゃおうかな!早く着替えたい!」
といって、いそいそと着替え始める。
ーーえー、待ってよ!そんなにすぐ出発できないよ!
なんて掛け声をかけちゃったらこれ加速する。仕舞いに、こうだ。
「ママ、〈坊〉は全部準備おわっちゃいました~!ママはまだー?」
阿呆なのだ。それゆえに、何という可愛さ。
その一方で、「だからなのか?」とも思うのである。今まで出会ってきた男子たちに対して感じてきたもの、大人でも子供でも、同輩でも先輩でも、同僚でも学生でも、なんだろう、度々「ほう…」と少しの違和感を残してそのたびに日常に沈んでいく、よくわからない鷹揚さとか自信みたいなもの。当然のことを終わらせただけなのに、なんだその「いい仕事しました!」感は、というか。あれ、結構ぎりぎりでフォローさせてたけど謙遜の言葉もないけど、それでいいんだ、みたいな。
たぶんそれでいいのだ。悪気も全くない。ミスなんて覚えてもいない。だから彼らの表情は晴れ晴れしている。それが羨ましい。
「インポスター症候群」という言葉は随分前に知ったけれど、女性に多いのだそうだ。詳しくは調べて頂いたらいいけれど、なんとなく自分が過大評価をされているけれど実力は伴っていないのではないか、自分はここにいていいのか、この仕事に値するのか、不安で仕方がなくなり、何かの拍子で詐欺師であることが明かされてしまうのではないかと感じる傾向。
私くらいさんざん伸び伸び育ってもこいつにしばしば苛まれて、クォリティを上げるのに使えるはずの時間をメンタル快復に使う破目になる。コメントを求められたら反省を入れたほうが相応しいんじゃないかと思ってしまったり、ちょっとのせられると自虐ネタの一つもいわなければいけないような気分になる(京都にいた所為かも)(芸風もあるか)(いや、実力が実際に伴っていないのでは…)。いったいなんなんだろう。記憶を改竄というほどでもない、程よくハッピーなとこだけ残って自信たっぷりな奴らとやり合うには、こんな荷物、邪魔だ。
というわけで、元は「毎朝、当然のことしてるだけなのに自信満々でハッピーなボーイを着実に製造してます」うしろめたさの話だったんだけどさ、これはいいことなのではないかと思い直したわけです。うん、どんどんやろう。
むしろ、願わくば、もっと賢くて聞き分けがよく先回りして考えがちなお子たちであっても、誰にでも、当然のことをしてるだけなのに自信満々でハッピーなガールやボーイでいられる環境が与えられんことを。