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2024/09/04

テキストとウェブと危機感の話

 ソフィ・タンハウザー『織物の世界史』(鵜飼まこと訳、原書房2022)そんな暇はないのだけど休憩読書用にしててとても面白い。

 ニューイングランドのリネン、インドのキャラコ、テキサスの綿花。家庭や小さな作業場で行われていた手仕事が巧みに手元から取り上げられて、その代わり、わずかな現金収入のために紡績工場での非健康的な単純作業や借金地獄の綿花栽培に従事せざるを得なくなる。何とも酷いし、悲しいことに見慣れた構図でもある。(今途中でこのあと新疆ウイグルの綿栽培の話になるのでもっと地獄が待ってるはず…)

 なぜか思い出すのが学科会議の「アドビのソフトの利用料金がまた上がるんだけどどうしよう」問題(*)。

 欠陥があるとわかっていてモンサントから遺伝子操作された綿の種を買わなければ仕事ができない、収穫で得た所得の一部はまた翌年召し上げられるってのと何が違うだろうか。「昔は仕事道具はいったん自分のものにしたら修理しながらずっと使えたのに…(もちろんいいのに買い替えることはできるけどタイミングは選べたのに…!)」

 だからやっぱりグーグルフォトに息子の写真の管理を任せてはいけないのだ。「昔は写真は本棚からいつでも見られて、為替変動を気にしながら毎年お金を払わなくても自分のものだったのに…」とならないために。そしてたぶん本を紙で所有することにも意味がある。「昔は本屋がつぶれても一度買った本はいつでも読めたんよ。クレジットカードがなくても買えて、誰がどんな本をもっていようと自由だった。一度手に入れたら当局の検閲で中身が勝手に変わることも、データを掘り返して読書履歴を探られることもなかった…」

 学生サンに「紙の本の手触り・温かみ」を主張されると、授乳中唯一の慰めだったのがキンドルでたわいない短編小説を読むことだった話をしてちょっと引かれる私でありますが(**)、本を自由にしておくためには絶対にちゃんと燃える、逆に燃やさなければちょっとやそっとでなくならない紙の本でなきゃ、と思うのであります。

(*) Adobeというのはアメリカのカリフォルニアのソフトウェア会社で、世界中のデザイナーとかイラストレーターとか映像の人たちが使っているたっかいソフト「フォトショップ」「イラストレーター」とかを作って売っていて、少し前までは買い切りのがあったのが、近頃は利用料を払ってライセンス契約をするスタイル一本にしているっぽく、昨今は円の弱さもあって大変評判が悪い。

(**)これは本当に!今も読書灯をつけると決して寝ない子だが電子書籍に関してはかろうじて寝かしつけと併用できる(日によるが)。あと授乳初期とか大体腱鞘炎で手とか腕が死んでるのでとてもじゃないが本は持てないのだ。ついでに言うと、地方在住で家族持ちだと、夜中に続きが読みたくなった時にフラフラ買いに出ることもできないけれど、電子書籍ならそれが出来る…と、必要に応じて悪魔に魂をチラつかせて利用しております。


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